まず、こちらの画像をご覧ください。
これは、ゲームフリーク 遊びの基準を塗り替えるクリエイティブ集団(メディアファクトリー刊) という書籍に掲載された開発時の資料です。
右上の方に“1990”という表記が見られますが、1990年というのは「ポケットモンスター」が正式な開発プロジェクトとしてゲームフリークと任天堂との間で契約が取り交わされた年です。
というより、この資料自体がその契約の企画書の中の1ページでしょう。いずれにせよ、この図がかなり初期のものである事が分かりますね。
もっとも、当時は「カプセルモンスター」という今とは異なる名前でしたが。
いくつかの四角を結んだだけという簡素な書き方ですが、ポケモンユーザーの皆さんなら「お、カントーのマップか?」とひと目見ただけで分かった事でしょう。
各町(四角)には具体的な名称はまだ書かれておらず、各道路および水道(結び)も「3-1」「9-2」など製品版とはちょっと違うナンバリングになっています。
↑マップは最終的にこうなる
各道路・水道の数字が見づらいかもしれないので、製品版との比較も併せて表形式でまとめてみました。
場所 | 初期資料 | 製品版 | |
マサラ・トキワ間 | 1 | 1番道路 | |
トキワ・ニビ間 | 2 | 2番道路 | |
ニビ・ハナダ間 | ニビ側 | 3-1 | 3番道路 |
ハナダ側 | 3-2 | 4番道路 | |
ハナダ・ヤマブキ間 | 4-1 | 5番道路 | |
ヤマブキ・クチバ間 | 4-2 | 6番道路 | |
ヤマブキ・タマムシ間 | 5-1 | 7番道路 | |
シオン・ヤマブキ間 | 5-2 | 8番道路 | |
ハナダ・シオン間 | ハナダ側 | 6-1 | 9番道路 |
シオン側 | 6-2 | 10番道路 | |
クチバ東 | 7 | 11番道路 | |
シオン・セキチク間 | シオン南(釣りの名所) | 8-1 | 12番道路 |
柵だらけの道路 | 8-2 | 13番道路 | |
セキチク東 | 8-3 | 14番道路 | |
8-4 | 15番道路 | ||
タマムシ・セキチク間 | タマムシ西 | 9-1 | 16番道路 |
サイクリングロード | 9-2 | 17番道路 | |
初期資料ではセキチク北 製品版ではセキチク西 | 9-3 | 18番道路 | |
9-4 | |||
セキチク・グレン間 | セキチク側 | 10-1 | 19番水道 |
グレン側 | 10-2 | 20番水道 | |
グレン・マサラ間 | 11 | 21番水道 | |
トキワ・セキエイ間 | トキワ側 | 12-1 | 22番道路 |
セキエイ側 | 12-2 | 23番道路 | |
ハナダ北 | 13-1 | 24番道路 | |
13-2 | 25番道路 |
初期資料でのマップの構造は製品版とほとんど同じですが、タマムシの南に「C」という謎の地点があったり、18番道路がセキチクの西とではなく北と繋がっている等細かい変更点も見られますね。
(厳密に言うと、製品版には9-4に該当する道路は存在しません。製品版では9-2がもっと長く伸びていって、結果9-3の東端とセキチクの西がくっつく…という感じ?)
さて、ここで注目していただきたいのは製品版でいう「ヤマブキシティ」に該当する場所です。
前述の通り、町には「1」「2」といった風に数字が割り振られているのですが、ここだけは何故か数字ではなく「T」と書かれています。
この「T」が何を意味するのか(「T」が何のイニシャルなのか)は不明ですが、この場所は元々は町とは趣の異なった「特殊な地点」だったのではないかと僕は睨んでいます。
没になったであろう「C」もまた「特殊な場所」だったのでしょう。
(もしかして「C」は製品版でいうサファリゾーン的なスポットだったのかな?ただ、「C」はどの道路とも繋がっていないのが地味に謎…。)
実は、ヤマブキシティにはゲーム内で確認できる要素にも不可解なモノがいくつかあるのです。
これは、第1世代のポケモンを遊んだ経験を持つ方なら誰もが一度は疑問に感じた事があるのではないでしょうか。
↑「空を飛ぶ」をフィールド上で使う際に表示される町の選択画面。
動画を見ていただければ分かるように、
マサラ→トキワ→ニビ→
ハナダ→シオン→クチバ→
タマムシ→セキチク→グレン→
セキエイ→ヤマブキ……という順番になっています。
6番目のジムも構えている、「物語の中盤に立ち寄る町」としか説明のしようがないヤマブキシティが何故最後なのでしょうか?
前述の「T」の件もありますし、やはりヤマブキシティのあった場所は元々は町とは違った性質を持つ「特殊な地点」だったのではないでしょうか。
もしそうだとしたら、ヤマブキが「特殊な場所」から「数ある町のひとつ」に変更されたのは
少なくとも「そらをとぶ」システムが(おそらくは会議等で)考案され実際にデータとして打ち込む作業が行われた後だろうと推測できます。
…ところで、ちょっと話が変わりますがシオン→クチバはゲーム中での主人公の歩み方と食い違っていますよね?
製品版の(開発サイドが想定しているであろう)シナリオなら、
ハナダでジム突破→
地下通路経由でクチバ到着→
クチバでジム突破→
地下通路経由でハナダに戻る→
ハナダの東から9番、10番道路と進みシオンへ向かう
…となるはずです。攻略本のシナリオチャートもこうですし。
(開発サイドの意図を忠実に汲むのなら、クチバジム突破後にディグダの穴経由でニビ南の道路へ行き研究員からフラッシュの秘伝マシンを貰う、というプロセスが入りますがここでは省略しました。
というか別にフラッシュなくてもイワヤマトンネル通れるんよね…)
ここで、前述の「開発時の資料」に書かれていた"各町に割り振られていた数字"をもう一度確認してみてください。
1 | マサラ | |
2 | トキワ | |
3 | ニビ | |
4 | ハナダ | |
5 | シオン | |
6 | クチバ | |
7 | タマムシ | |
8 | セキチク | |
9 | グレン | |
10 | セキエイ | |
T | ヤマブキ |
…そう、開発初期に書かれたマップ草案での数字と、製品版での「そらをとぶ」の順序は完全に一致しているんですよ。
かなり初期の段階で既に物語の舞台の造形と共にシナリオ(主人公の旅のおおよその道筋)までも固まっていたと見れますね。
シオンの方がクチバより番号が若いのは、当初は ハナダ→クチバ→ハナダ→シオンルートではなく ハナダ→シオン→クチバルート だったから…という事なのでしょうか。
↑もしかして元々はこうだった?
ただ、このルートでも道路の方の数字は結局逆転したまんまなんですよね…。
4-1・4-2(ハナダ・ヤマブキ・クチバ間)や5-1・5-2(シオン・ヤマブキ・タマムシ)をすっぽかしていきなり6-1・6-2(ハナダ・シオン)に繰り出す事になる…。
まぁ製品版でも5-1・5-2はすっぽかしているんですが。
それに、この仮説だとクチバからタマムシへの行き方がちょっとよく分からない事になりますね…((
ここで普通に「T」に入れるようになるのでしょうか。それとも、もしかしてここで「C」へ行くのかな。あるいは一旦シオンに戻って5-2→地下通路→5-1?
…色々考えていると、「初期段階では地下通路はなかったんじゃないか?」という考えがふと頭に浮かんできました。
なんというか、あのタテ・ヨコふたつの地下通路はヤマブキを「特殊な場所」から「数ある町のひとつ」に変更する際に起こりうる弊害をどうにかするために取られた苦肉の策のような印象…?
ただ、場所の内部番号を覗いて確認してみると2つの地下通路はいずれも結構若めなのでこの「地下通路後付け説」はナシが濃厚そうですね((
ヤマブキシティジムでのトレーナー戦は、何故か勝敗に関係なく一人一回までで終わりという挙動になっています。
たとえ負けたとしても「勝った」と扱われる……という言い回しの方が分かりやすいかな。
通常ならば、負けてしまった場合はプレイヤー側が勝つまで何度でも再戦ができるはずなのですが…。ちなみにこれ、ジムリーダー・ナツメも例外ではありません。
こんな事になっちゃっているんですよねぇ…。
実はというかやはりというか、この挙動は青版以降では修正されているそうです(自分では未確認)。
これを「不具合」だとか「バグ」だとかと捉える方もおられるかもしれませんが、
僕は「"(開発段階で組まれていた)ここ独自の対戦の仕様"が修正されずに残ってしまったもの」なんじゃないかなーと考えています。
普段とは違う、特殊なルールのバトルが行われる施設だったのではと予想。
ジムに関して、他にも気になる事がありまして…。
無人発電所やポケモン屋敷のような「ダンジョン」ならともかく、普通は「建造物」内では穴抜けのヒモは使えません。もちろんジムでも。
ところが、8つあるジムのうちヤマブキとグレンの2つだけは何故か穴抜けのヒモが使えます
(動画の内容としては省略していますが、穴を掘るでも全く同じ検証結果が得られます)。
同じ「建造物」でも内部データ上での処理・分類が異なる複数のカテゴリが存在し、ヤマブキ・グレンジムは他6つのジムとは別のカテゴリ……という事でしょうか。
当初はジムとはまた別の、何かしらの施設的ダンジョンだったのでしょうかね。
というかそもそも「ジムバッジは8つ」という設定は開発時のだいたいどの辺の時期に固まったんでしょうかね…?
…もしかして、「あれ?ヤマブキだけじゃなくて実はグレンもなかなか謎なんじゃね?」とお思いになったのではないでしょうか。
そうなんです。実はグレン(というかグレンジム)もかなり謎なんですよ((
ジムリーダーやトレーナー達が外出していた訳でもないのに何故ジムに鍵がかかっていたのか…
何故カツラの公式イラストは複数存在したのか(何故途中で容姿が変更されたのか)…
↑「任天堂公式ガイドブック ポケットモンスター(小学館)」の初版(左側)と
改訂版(右側)。
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何故グレンジムのバッジ名を素直に「レッド」とせず「クリムゾン」とちょっと凝った(?)のか…
↑「主人公のデフォルトネームとのカブりを避けるため…!?」という考えは |
何故ジムの屋根の上におっさんが現れるのか…
↑これはまぁどうでもいいか。 |
グレンにまつわる謎も結構あるんですが今回はそっち関連は「横道に逸れた題材」とさせていただきます。
まぁ「こういう謎もあるんだよ」というちょっとした紹介(?)という事で。
というかグレンに関しては判断材料が少なすぎる…www
…ところで、↑の「あなぬけのヒモ」の動画を見て何かに気が付きませんでしたか…?
そうです、ヤマブキジムとグレンジムの2つだけは他の6つのジムとはマップチップが異なるんです。
ちょっと詳しく見ていきましょうか。
「マップチップ」というと普通8×8で見るべきなのですが、ここでは把握しやすくするために16×16で見ています。
何かしら傾向めいたものが“見えてきた”のではないでしょうか。こうして銅像や床、マット辺りに着目してみると分かりやすいですね。
前述の穴抜けのヒモのくだりで言っていた事の繰り返しになりますが、
「ヤマブキジムとグレンジムの2つ」と「それ以外の6つのジム」とでは、明らかに建造物としての分類・カテゴリが異なっていると考えられます。
マップチップが違うんですから。
まぁ、「ヤマブキジムとグレンジムの2つだけは“敢えて”当初から別のカテゴリでマップデータの作成に取り掛かっていた」可能性もなくはないんですけどね。
ヤマブキジムは「テレポート床」。グレンジムは「特定の条件を満たす事で開く扉(見てくれはどう見ても壁ですが)」。
こういった“ちょっと凝ったギミック”を盛り込むために敢えて他のジムとは別の建造物カテゴリでマップデータ作成に取り組んだ(或いは「別の建造物カテゴリで作成せざるを得なかった」?)のかも。
…あれ?もしかして穴抜けのヒモの謎は謎でも何でもなかったのかしら?((
いずれにせよ、8つのジム全てが1つのカテゴリに統一されていないというのはなんかムズ痒い感じがしますが…www
ちなみに、この「2つのジム」と同じカテゴリ(=「銅像や床、マットのマップチップが同じタイプ」)の建造物にはロケット団アジト・無人発電所・シルフカンパニー・ポケモン屋敷等があります。
↑床や出入口のマットに注目!↑ | ↑テレポートブロックは ヤマブキジムと同様のもの。 |
↑銅像のスイッチで開閉する扉。 グレンジムの扉と同じマップチップ。 |
対して、「他6つのジム」と同じカテゴリ(=「銅像や床、マットのマップチップが同じタイプ」)の建造物にはオーキド研究所・格闘道場・ポケモンリーグ等があります。
↑床や壁に注目! | ↑この銅像は言わずもがな。 | ↑ここの床のマップチップは、 ハナダジムにあったアレ。 |
…この「マップチップに見るカテゴリ」はまた別に機会にじっくり取り上げてみる事にしましょうかね。長くなりそうだし…((
そういえば、格闘道場(空手王サイド)と現ヤマブキジム(ナツメさんサイド)はジム権(?)を争っていた…という設定があるんでしたっけ。
↑とあるサイキッカーに |
元々は現格闘道場がヤマブキジムでナツメのナの字も無かったけど急遽その辺の設定・舞台背景を変更する事になって、
「んじゃもう既に作っていたこっちの格闘ジムは、派閥争い(?)に敗れた旧ジムって設定にしておくか」みたいな経緯があったんじゃないかと、僕は邪推してしまうんですよね……。
「ジムが2つある(あった)」という設定の存在意義はなんなんだ?何故こんな設定を生んだんだ?他の街と同じように普通にジムをポンと1つ設置するだけじゃいかんかったのか?と。
ところが場所の内部番号を確認してみると、格闘道場とヤマブキジムはなんと隣同士なんですよ…!
これが、内部番号が滅茶苦茶離れていたら前述の僕の妄想も多少は「かもしれない」オーラに包まれるところだったのですが((
うーむ……。
なんかだんだんグレンも巻き込んでいっている感が否めませんが…w
ヤマブキの特異性というのが随所に散らばっているのがお分かりいただけたでしょうか。
僕は、このヤマブキシティへの着目が「ピカ版との相違点」や「マップチップに見る建造物のカテゴリ」等、今迄はあまり気に留めていなかった概念に目を向けるきっかけになりました。
そこんとこも深くつっついてみると面白そうだな…。